小鳥遊 遊鳥の裏通り

La Vérité sortant du puits.

大艦巨砲主義のようなもの

Accidents Will Happen(じこはおこるさ)

 「トーマス」と“Google先生”に打ち込むと、筆頭に掲示される検索結果が「トーマス 機関車」で、次いで「トーマスバッハ」が示されてしまうあたりに、知的劣化が如実に現れていると自認する。もっとも、「コロナに打ち勝った証し」などと豪語して、開催を強行した五輪が終わった途端、「やっぱり負けていました」とばかりに政権を1年余りで放り出した無能且つ陰湿な御仁の三文芝居のお粗末さに比べれば、まだ可愛い方だとの判断を下してくれる向きもあるやに違いない。

 跡を継いだ豆もやしのような政権も、脛に傷を持つ二軍選手しか残っていないのであろう。表紙だけは代わったものの、中のコンテンツに、見るに値すべきものが殆どないのには改めて驚かされる。どう好意的に解釈しても、行き詰った社会にイノベーションを、少なくともコロナ禍に対する有効なソリューションを提供できる面々とは映らない。ウイルスという目に見えない「敵」と2年近くも対峙しておきながら、未だに旧態依然とした対策に固執しているからだ。

 そこで想起されるのは、やはり、今や「失敗する組織」の代名詞と化した感のある日本海軍を置いて、他にはないだろう。肉眼では捉えにくい暗闇や薄暮悪天候時に来襲する敵機を捉えるに当たり、自国が生み出した八木アンテナという優れた電子デバイスがありながら、その価値を正しく評価できなかったばかりか、「敵を前にして電波を出すなど『暗闇にちょうちんを灯して、自分の位置を知らせるも同然』だと考え」て、全面否定。その愚かな判断は、後に、レーダーと無線を駆使した米国の電子戦で日本海軍の艦艇と航空機が蛸殴りにされたマリアナ沖海戦などを通じ、自らの血で贖うことになったことは羞恥、もとい周知の通りである。

 目に見えないウイルス=敵を前にしながら、八木アンテナ=レーダーに相当するPCR検査の全面的な実施を、「偽陽性」の発生確率を根拠として抑制に走り、クラスターをしっかりと把握していけば制御は可能という、いわば肉眼での敵機確認を徹すれば事は足りるという判断を下した結果、これまでに計5波に及ぶ新型コロナウイルス感染症の流行拡大を招き、結果としてこれまでに、東日本大震災を上回る1万8000名弱に及ぶ死者を出すという日本の現代史に深く刻まれる大失態を演じた。

 先の戦争とのアナロジーをさらに続けさせてもらえれば、接触感染や飛沫感染新型コロナウイルス感染症の主要な感染経路と見做し続け、その後、どんなにそれとは反する知見が集まろうともエアロゾル感染を中心とする空気感染を認めなかった政府の硬直した姿勢は、ミッドウェー海戦で第一航空艦隊を失い、航空戦力の価値の方が勝るというファクトを突き付けられてもなお大艦巨砲主義からの思想転換を果たせなかった病的なプライドを宿す穀潰しエリート集団の姿と、見事に重なる。要は、80年前から何も進歩していないという「現実」を、図らずも、この見えないウイルスは白日の下に晒してくれたという訳だ。

 恐らく、極東の島国の混乱は、コロナ禍が収まってもしばらく続くであろう。振り返れば14世紀のヨーロッパ。居住人口の3分の1を死に至らしめた黒死病(ペスト)を前に、教会は「無力」を曝け出し、行き詰まった封建領主たちの権威は失墜した。不条理を突き付けられた人々は、それを克服しようと「科学」と「自然」に目を向け始め、その動きは100年後、イタリアはフィレンツェ発のルネサンスとして花開いた。そして、この瞬間こそが、本当の意味での「ペストに打ち勝った証し」に他ならなかった。してみると、目に見えないコロナウイルスに組み手すらできていない段階であるにも関わらず、「打ち勝った」などと宣うことが、いかに不遜で無知で歴史を知らないな封建領主的発言であったかということが分かるに違いない(聴こえてるか?無能且つ陰湿な御仁よ)。当人の表舞台からの退場は、実は政局でも何でもない。世の摂理と呼べるものであったと、『きかんしゃトーマス』を観ながら改めて想う秋の日の一日である。

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八木アンテナを構えるドイツ第三帝国の傑作夜間戦闘機 He219

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黒死病に打ち勝つのに1世紀かかった